作:名無し
「春香……ほんとうにいいの?」
「うん、千早ちゃんとなら」
春香はベッドに仰向けになり、シーツに手のひらを押し当てた。
緊張しているのだろう、千早はぎこちない動きで春香に覆い被さってくる。
長い黒髪が流れてきて、春香のほおをくすぐった。
見つめ合う。
もう、なにも迷いはないはず。
けれど、どうしようもなくこころがざわつく。
これから、どうすればいいのか春香たちは知らない。
千早も、きゅっと唇を結んで動かない。
「ん」
まったく同じタイミングで、二人はそっと呼吸を整えた。
それだけのことで、胸のどきどきがおさまった。
目の前の千早は、今まで見たことがないような優しい顔をしていた。
今、春香は幸せだった。体中が期待に満たされるのを感じる。
春香はそっと目を閉じ、千早の唇を待った。
何も起こらない。
何も起こらない。
「――あの、千早ちゃん?」
目をひらくと、千早がものすごい早口で何かを一人ごちでいた。
「タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、
タッチは優しく、タッチは優しく、 タッチは優しく、タッチは優しくタッチは優しく、タッチは優しく、
タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく」
(んー、からだにさわりたいのかな?)
「タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、
タッチは優しく、タッチは優しく、 タッチは優しく、タッチは優しくタッチは優しく、タッチは優しく、
タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく、タッチは優しく」
「――くっ。だめ、できないっ」
「私は平気だよ千早ちゃん。さわって?」
春香は千早の手をとり、そっと自らの胸元に導いた。
「ギャッー! なにか柔らかいものがっ!」
絶叫を残して千早は部屋から走り去っていった。
一人残され、春香はベッドの上で体育座りした。
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