♪sad forest drum

作:126

少し離れた場所で行き交う、いくつかの足音。 
暗闇に慣れたまぶたの裏を、光が照らす。手をかざしながら千早が目を開けると、そこは狭いライトバンの中だった。 
すぐ隣では、千早に掛けられていたものと同じオレンジ色の毛布をかぶって、春香が幸せそうに眠っている。 
一瞬自分はどこに居るんだろうと混乱して、それからすぐに千早は気付いた。 
ファーストシングルのジャケット撮影だ。 
撮影は当初都内のスタジオでやる予定だった。それが誰の一声かはわからないが、郊外の森でロケを行うことに変わった。 
しかし時間も予算もない。 
だから早朝、と言うより深夜と言った方が正しい時間から移動を始め、日帰りで撮影を行うことになった。 
車の時計を見る。まだ夜明け前だ。 
真っ暗な森の中で、ライトを照らしながら機材の準備が進められている。 
今のうちにもう少し寝ておくべきなのだろうが、目は完全に覚めてしまった。 
車内のよどんだ空気に胸が詰まる。外の空気を吸おうと、春香を起こさないように体をずらす。 
毛布をたたみ、座席に置く。それから車のドアに手をかけたところで後ろから声がした。 
「……あれ、お母さん、もう朝?」 
ほとんど舌が回っていない。 
「春香、寝ぼけてるんですか?」 
「え?……千早ちゃん?あ、そっか」 
呟きながら、春香がまだ眠そうに目をこすっている。 
「撮影はまだのようだから、春香は寝ていても大丈夫ですよ」 
「え、でも、千早ちゃんはどこ行くの?」 
「外の空気を吸ってこようかと」 
「じゃあ、私も行くよ!」 
あたふたと毛布をたたんで、春香はピンクのカーディガンを羽織ると千早について車を出る。そしてドアを閉めた。 


辺りを夜明け前の霧と冷たさが包んでいた。空模様がよくないのか、月明かりも星も見えない。 
それでも闇に目が慣れると、少しずつ辺りの様子が見えてくる。 
森は枯れつつあった。そういう時期だった。 
「寒いねぇ〜、千早ちゃん」 
手をこすりあわせて、息を白く吐き出しながら春香が言った。 
「そうですね。でも、おかげで目は覚めたんじゃないですか?」 
「もう〜、千早ちゃんて、すぐそうやっていじわる言うんだから」 
口をとがらせるでもなく、春香は笑顔で返す。 
「でも、寒いですね」 
「うん。……あ、そうだ!」 
春香はそう言うと、千早に抱きついた。 
「おしくらまんじゅうしよっか♪」 
「なんですか?それ」 
「え」 
意外なモノを見た、という感じで春香が一歩後ずさる。 
「ああ、うーん、そっかぁ……うんうん」 
一人で頷いている春香に、千早は首を傾げる。 
そのとき、声がした。 
『やっちゃえ』 
「え?……なにをですか?」 
腕組みまでして考えていた春香に、千早は尋ねた。 
「ん?千早ちゃん、なにか言った?」 
「いえ。春香こそ、今、なんて?」 
「おしくらまんじゅう?」 
「いえ、その後に」 
「独り言なら言ったけど……癖なんだ、独り言とか、歌とか歌っちゃったりするの」 
「そうですか……」 
「……どうしたの?千早ちゃん」 


微妙な違和感が、千早の頭に鈍く残っていた。 
「千早ちゃん、だいじょうぶ?」 
千早は軽く首を振る。微かに頭痛がした。 
辺りをうかがいながら、春香がぶるっと体を震わせる。 
「体でも冷やしちゃったかなぁ。カゼひいたらいけないし、車に戻ろう、千早ちゃん?」 
『春香、この先にいい場所があるの』 
どこか遠くで自分の声を聞いているような印象。自分の声が、自分のものではない感覚。 
「……え?」 
「湖を背にして、滝があるんです。ジャケット撮影に最適ではないかと。私、下見をしておこうかと思うんだけど」 
「そうなんだ。でも、一度戻った方がいいんじゃないかな。何か上に着てくるものをもってきた方が……」 
小首を傾げながら、千早は春香へと手を伸ばした。 
「どうして?」 
問いかけながら春香の白いデニムのジャケットを、ゆっくりと脱がす。不安そうに目を丸くしたまま、春香はただ、千早を見ていた。 
「滝だって言ったじゃないですか。濡れるといけないから、服は着てない方がいいかと」 
「で、でも、別に泳ぐわけでもないんだから、服は脱がなくたって」 
相変わらず春香は抵抗しない。千早はジャケットを枯れ葉の積もった地面へ棄てて、続けて白いブラウスのボタンを外す。 
小刻みに震える春香は、何に震えているのだろう。 
「春香、寒いんですか?」 
そう問いかければ、春香はこう答える。 
「う、ううん。平気だよ。それより千早ちゃん、千早ちゃんの方こそだいじょうぶ?」 
「私は大丈夫です。でも春香。寒くないなら、春香は何で震えているの?」 
答えはない。 
まるで人形のような春香からピンクのブラウスを脱がして、春香の両肩からブラのひもをずらす。 


「スカートも脱がないといけませんよね」 
スカートのホックを外して、地面へすとんと落とす。 
返事の変わりに震えながら春香が吐き出した息は、真っ白だった。春香の肌の色も、同じくらい真っ白になっていた。 
「また、鳥肌が立ってますね」 
胸を隠す春香の手をむりやり引きはがして、千早はブラを抜き去ると、春香の胸のてっぺんを指で弾いた。 
「いたっ!」 
寒さで感覚が過敏になっているのだろう。 
千早は小鳥のように軽く首を傾げると、一歩後ろへ下がった。 
「千早ちゃん」 
歯をがちがちをならしながら、それでも春香は千早に笑顔を作っていた。 
森の冷気のせいだろうか。千早は頭を重く感じた。カゼでもひいてしまったのだろうか。 
「……どうして、春香はいつもそうなんですか?」 
「え?」 
「なんで」 
言いかけて、千早は激しい頭痛に頭を押さえた。 
「ち、千早ちゃん!?」 
千早は首を振って、春香に微笑みかける。 
「大丈夫です」 
「だ、だいじょうぶって!そんなに顔真っ青じゃない!早く戻ろう、プロデューサーさんなら、きっとすぐ……」 
千早は春香の手首をつかむと、強引に春香の体を引き寄せた。 
そのまま春香の背に手を回して、春香の唇を奪う。 

「む、むぐ?」 
驚いて目を見開いたままの春香の唇を、千早は舌で強引にこじ開けた。 
春香は体を硬直させて、何もできずにいる。舌を春香の口に差し入れて、千早は自分の舌と春香の舌を絡ませた。 
「む、……ふっ!」 
息を詰まらせて、春香が顔を歪める。構わずに千早は春香の舌を味わった。 
「ふ……んっ、ん?……んっ!」 
苦しげに息をつきながら、それでも春香は千早に抱かれたままでいた。 
頬が真っ赤になっている。千早は春香の胸へ手を伸ばし、乱暴にもみしだく。 
ぎゅっとつぶった春香の目尻に、涙が浮かんでいた。額に汗が浮かび、眉も歪んでいる。 
春香の息は徐々に荒くなってきていた。しかしその音は色っぽさとはかけ離れていた。 
嫌がっている。ただ純粋に、苦しがっている。 
千早は春香から唇を離した。千早の舌と春香の舌の間を、つぅっと透明な糸がつないでいる。 
しかし千早には、それに感じるものが全くなかった。 
「どうして……」 
春香は千早の腕の中で咳き込んでいた。 
「ご、ごめんね千早ちゃん。いきなりだったから、私、ちょっと焦っちゃって、それでうまく息ができなくて」 
『春香』 
「な、なに?千早ちゃん」 
『脱いで。全部。ここから先は、自分で』 
春香の胸の鼓動が、千早の服越しに千早の胸へと届いていた。 
「それが千早ちゃんの……して欲しいことなの?」 



『ええ』 
言いながら、千早ははっと気付いたように頭を振った。春香はうるんだ目をしてせつなそうに荒い息を吐いている。 
「……わかったよ」 
一歩身を引いた千早の前で、春香はショーツを脱ぎ去り、靴と靴下を脱いで裸足になった。 
「リボンは?これも全部取る?」 
千早の返事を待たずに、春香はリボンをほどくと、千早に手渡した。 
そして春香はリボンを持たせた千早の手を取り、その手を冷たい自分の両手で包み込むと、春香の胸に当てる。 
「聞こえる?千早ちゃん」 
「な、なにが?」 
寒さに粟立ちざらざらした春香の肌の下で、冷たい鼓動が不規則に時を刻んでいた。 
「私、ここにいるよ」 
「……春香、なにを言っているの?」 
「ほんとうは、千早ちゃんはそうして欲しくないのかもしれない。でも、私は、ここにいるね」 
にっこりと微笑む春香が、千早の顔を見上げた。 
いつの間にか、千早は地面に倒れた春香を抱き上げていた。 
どこか遠くに聞こえる声で、千早は春香に向かって何かを叫んでいる。 
何を叫んでいるのかはわからない。まるで夢の中にいるような感触だった。 
今にも消えそうな声で、春香が千早に答えた。 
「大丈夫。ずっと、一緒だよ」 
そこから先の映像は、途切れ途切れ。 
茫然と春香の手を握る千早の周りを誰かが駆けていく。 
誰かが千早から春香を奪うと、担架に乗せて運んでいく。 
白と赤に塗られた救急車が目の前にある。 
巨大な扉が真っ暗な口を開け、春香を飲み込むと、大きな音をたてて閉じた。 


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